1999年11月アーカイブ

秘密
連載49 ($Revision: 1.0 $)

◆ ◇ ◇

 絨毯の上には、ビールの缶がいくつか、空になったものは転がっています。同じく無造作に置かれている灰皿は、溢れんばかりで、フィルタがそこから生えているかのように見えます。さらにその横には、PalmV。
「おれ見ちゃったんだ」山科祐次くんが会話の切れ目をみつけて云いました。
「なにを?」須藤千夏くんが訊きます。
「タタさんの Palm に・・」
「タタさんというと、あのひょろりと背の高い人だな」そう云うのは、叶今日介くん。
 それに頷いてから、祐次くんは続けます。「あの人の Palm に・・ いやホントにたまたま見ちゃったんだけど」
 つい先日のことです。タタさんと同じグループにある祐次くんは、定例の打ち合わせで彼の隣になりました。タタさんは、当然のように持参している Palm を取りだします。祐次くんも、なぜが周りの皆なさんがあたり前のように所持している Palm シリーズに興味がありましたから、ついそちらに目をやったのですが。
「週末の予定が見えたんだよ。電源を入れてすぐに出て来てて」 TealGlance! *1 でも入れてたのかな、と千夏くんは思います。
「それで、なんて?」
「『14時、ミサキ』」と内容を云います。
「誰?ミサキって」グループが違う今日介くんは、どうしてその内容が問題になるのかが分かりません。
「海の岬のことかな」千夏くんはすぐに察したようですが、そう云います。
「美しいに咲くって書いてあったから、どう考えも女の人の名前だよ」
「う~む」
「だからそれが何だっていうのさ」今日介くんはいらいらして訊きます。半分も喫っていない煙草を灰皿へ押し付けました。
「つまりね、太郎さんは・・ てそのタタさんて人のことなんだけど。おんなじ部署の女性とつきあっているはずなのさ」
「千夏は何か知らないの?その美咲さんって人のこと」祐次くんは云います。
「いんや、初耳だよ。三奈月さんと見間違えたってことは無いの」それには、祐次くんふるふると首を振ります。
 ようやく、呑み込めてきた今日介くん。「それじゃぁ、その『タタさん』が二股してるってこと?」
 そう云われると、千夏くん、祐次くん、二人して考え込んでしまいます。
 寮の祐次くんの部屋で、しばらく首をかしげていました。すでに夜中の1時を回ろうとしています。
「見間違えじゃない」もう一度千夏くんが云いました。

 さて次の日、いつも通りの時間に出勤したタタさん、cradle に Palm を乗せ。PC を立ち上げます。隣にあるサーバマシンのディスプレイのスイッチも入れると、椅子に腰掛けました。そのまま、Palm の電源を入れて今日のスケジュールをチェックします。
 週末の予定が目に入ります。もちろん覚えていることなのですが、つい口元がにっこりしてしまいます。そこには確かに『美咲さん』という名前がありました。
「どうしたんですか?なにか面白いソフトでも見つけました?」
 突然、声をかけられて、びっくりして顔を上げると三奈月さんがコーヒーサーバ片手に机の向うに立っています。どう?というようにそれを持ち上げたので、タタさんは慌ててカップを取り出すと、差し出しました。それに注いでもらいながら、さりげなく Palm の電源を切ったのでした。

「あれ、男たちは」
「午後から出掛けていますよ」
「山科くん、客先は初めてだって緊張してましたよ」
 食堂です。高原さんは珍しくラーメンです。マキさんはお肉。三奈月さんは魚料理です。
「もう年末かぁ、早いねぇ」高原さんが麺の隙間から云います。
「そうですねぇ」納得するように頷きます。「まぁ、一年が早いってことは、それなりに忙しかったってことで、良いことですよね」三奈月さんが云います。
 窓の外は秋が深まっている風景が見えます。
 少しして、云い出し難そうにマキさんが切り出しました。
「タタさんがアメリカに行くっていうのは決まりなんですか?」
「まだ、決めてはいないみたいだけど。前回は結局、一週間だけあちらに行っただけで、断わっている形になっているから、難しいかもね。」高原さんが答えます。そうして三奈月さんの方を見ました。
「ええ、まだ決めていないらしいです」
「どのくらいかかるのですか。期間的には」
「長ければ2年くらいってことだけど」
「場合によってはもっとかかるかもしれないって」三奈月さん、感情を押しころすようにしてそう云います。
「相談されたんですか」そう訊かれますが、肩をすくめる三奈月さんです。「私がダメだ、なんて云う権利は無いでしょう?」
 その言葉に高原さんは反論がありそうです「そう?」
「はい」

 打ち合わせが終って、電車の中です。空いていたので3人並んで座っています。
「どうでしたか。感想は」真ん中に座っているタタさんが云いました。
「そうですね。やっぱりノートPC 欲しいですね」議事録をひたすら手書きでメモしていた祐次くんは答えます。
「Palm にすれば。キーボードもいろいろあるよ」ここぞとばかりに有川くんが云います。キーボードが使えるんですかぁ、と返ってきます。祐次くんは Palm に相当興味を持ってしまったみたいです。タタさんを狭んであれこれと有川くんに質問します。
「千夏くんは V を持っていますよね」タタさんが思い出したように云います。
「えっ、そうなの?」有川くんは初耳のようです。
「あれはまた違うんですか?」「J-OSIIIx *2 を入れないと日本語が出ないんですよ」しばらく、Palm 談議です。
「噂ですけど、有川さんの WarkPad の壁紙には、奥さんの写真が張ってあるって聞きました」
「・・BackdropEZ *3 ですか?」タタさんの云いかたはちょっと冷たかったかもしれません。
「やってないですよ!!」慌てて否定します。それに無言で答える二人。
「いえ、あの、一回貼ってみたけど、今はしてないです。いやホントに」
「それより」有川くん、素早く話をすり替えようとします。「どうするのか決めたんですか?」タタさんへの問いです。
 このとき、『タタさん二股疑惑』をふと思い出した祐次くん、これを聞いてドキッとします。しかし、まったくそんな話ではなく。彼のアメリカ行きのことでした。
「決めましたよ」
「そうですか」やっぱり、という風に有川くんが答えます。そんな彼はちょっと淋しそうに見えました。

 結局、会社に戻ってきたのは祐次くんだけでした。時間がもう遅くなっていましたので、他の二人とは途中で別れました。彼も同期のメンバーとの飲み会がなければそうしているところです。
 戻って、議事録のメモを元にメールを作成して参加した人たちに流します。その頃には他の皆なさんもそれぞれ帰り仕度を始めていました。
 いつまでも来ない祐次くんを、千夏くんが迎えに来ます。すれ違うように三奈月さんと高原さんが帰って行きました。挨拶を交わしてから、千夏くんは祐次くんの傍らに立つと、「太郎さん、本当に『ふたまた』なのかな」本当に、三奈月さんと『美咲さん』を (両天秤) 状態なのでしょうか。
「たぶん、間違いだと思う」と祐次くんは云います。しかし、それはタタさんの為人から思うだけで、なんの確証も無いのでした。
 いい加減、急かす千夏くんです。今日介くんたちもフロアに来ました。祐次くん、慌ててコートを羽織ります。
そこへ、「いま頃、誰だろう」、電話です。祐次くん、コートに片袖を通した状態で受話機を手にしました。社名を告げると。
「あ、すいません。三奈月ですけど、姉をお願いします」
「すみませんが、三奈月さん、もう帰ってしまいました」弟の仁くんからでした。もちろん祐次くんは彼の名前までは知らないのですが。受話機を置きます。
「三奈月さん宛て?」千夏くんの言葉に、「そう」と祐次くん答えます。
「あ」
「ん?」なにかに気付いたらしいです。
「三奈月美咲さん、なんだ」
「え?三奈月さん、て名前じゃないのか」千夏くんが訊きます。そして、彼の机の上にあるシートに狭んだ座席表に気付きました。そこには、机の配置と席の人の苗字が書かれていました。
 それを掴むと祐次くんの目の前に差し出します。
「これ、なんて書いてある」
「なんのこと?」
「名前だよ」指さします。
「三奈月さん」「どうして彼女だけ名前だと思ったんだよ」
 祐次くんは、ぽん、と手を打ちました。そして、弁解します。「だって、みなづき、っていったら、(六月生まれなんだろうな) て思うじゃない」
「まあ、そうかな」他の方たちも、とりあえずは同意します。
「でもそういえば、三奈月さんって夏生まれって聞いたような・・」
 千夏くんのヒザ蹴りがみぞおちに入ります。
 でも、とりあえず、『タタさん二股疑惑』は解消されたのでした。

◇ ◇ ◆


*1: 電源投入時などに、時間・予定・Todo などを表示してくれる Hack アプリケーション。TealPoint 作成。
*2: PalmOS3 で使用できる J-OS です。もちろん、山田達司さんが作成されました。
*3: Palm のバックグラウンドに壁紙として、16階調Gray の画像を表示できます。Twilight Edge Software。

有川くんの長い一日
連載48 ($Revision: 1.1 $)

◆ ◇ ◇

「なんでしょう、これ」
「血文字ですね、いわゆるダイイングメッセージでしょう」探偵は答えた。
「そうだとは思いましたけど、どういう意味なんですかね、これ」警部は彼に問いた。
 男は床にうつぶせに倒れ、フローリングの床に血溜りができている。周囲は明らかに彼が抵抗した跡が見て取れる。グラスが床で砕け、その中身がまた床を濡らしていた。
「凶器はナイフですね。体の下側に隠れていますが、覗きこめば確認できます」刑事が手帳を見ながら報告する。
 警部と探偵はその位置から、腰をかがめ、確かにそれを確認した。
「なるほど、これは、彼がのたうった跡ですかね」警部は足元を見てそう云った。
「そうですね、即死ではなかったのでしょう。メッセージを残したす気力はあったようですから」そう云うと再度、血文字に目をやった。
 けっきょく、誰も何の意味なのか分からないまま、この探偵が結論を出してくれるのを期待していた。
 皆なでその血文字の周りに集り、意見を交す。文字は、たったの2文字。
「一文字目は『く』の字でしょうか、ひらがなの」
「そう見えるね、しかし、二文字目が分からないな」
「『べき乗記号』でしょうか」
「それにしては大きくないかい、」
「きっと、これは文字ではなくって、方向を指しているんじゃないでしょうか」
「左と上か? で、それにどういう意味があるんだ?」
「さあ」
「うむ、二文字目は『A』を書きかけている風にも見えるな」
「いや、ちょっと角度が違っているだけで、『つ』にも見えませんか?」
「『くつ』?靴屋の店員てことかぁ」
 警察官が意見を出し合うが、これと云って決め手になりそうなものは無さそうだ。
「ねぇ、田中さんいかがですか」探偵に意見を求めた。
 探偵はそれをじっと見下ろしていたが。
「ダイイングメッセージは、もちろん、被害者が犯人を指すために残すものです。その時にあえて複雑なものにしようとする、というのは、それを犯人自身に湮滅されてしまうのを恐れてということになります」
 田中探偵の言葉に、刑事たちは聞き入る。
「それでいて、あまりに分かり難いということはないはずです。誰にも分からなかったら意味はありませんから。だから、二文字というのはやはり犯人のイニシャルなんではないでしょうか」
 警部が驚いて訊き返した。
「『くつ』がイニシャルですか」
「いえいえ、ですから普通のアルファベットのイニシャルなんだと思いますよ」
 もう一度、それを見直してみるが、どう見てもアルファベットには見えてこない。二文字目がなんとなく『A』なのかなぁ、という程度。
「これを見てください」探偵は少し離れたテーブルの上から、手帳のような大きさのものを取り上げた。
「それは、えっと、PDA ですよね。なんて云いましたっけ」刑事のひとりが探偵に云う。
「ええ、これで」そう呟きながら、そのスイッチを入れた。その周りを刑事たちが取り囲む。探偵はその携帯端末に、被害者の残した文字らしきものをなぞった。
 それを見た瞬間にその場にいた全員が納得したらしき嘆息を漏らす。
「どうしてなんです、彼は一番の親友だったのではありませんか」
 探偵が、どうしてか僕に向ってそう云った。
「え、ぼくはやってないですよ。どうして彼を殺さなければならないんですか」びっくりしてそう云ったけど、刑事たちがすぐに僕を取り囲んだ。
 探偵がこちらにその PDA を指し出した『K A』と表示されている。さらに刑事たちの輪が縮まってくる。
「なぜコロシたのですか、」悲しそうな顔をして、探偵が云った。
「そうだ、動機はナンなんだ」警部がまくし立てる。
「そんな・・ぼくがそんなことするわけないじゃないですか、信じてくださいよ。タタさん!!」僕は一生懸命弁明するしかない。身に覚えはまったくないのだ。
「なにを馴れ馴れしい、このヒトゴロシ」
 ひとごろし という言葉が、頭の中でエコーする。僕はあっという間に警官たちに取り押えられた。
「ちがう!! ぼくじゃない・・ そんな、明日は式なのにぃー」
(フェードアウト)

「という夢だったんだよね」
「どおりでうなされていたわけだ」美由さんは(やれやれ)という風に溜め息をつきました。
「それがやたら鮮明な夢だったの。もうクーラー入れてたのに汗だらだらかいちゃったし」有川くん思い出したのか、額をぬぐう仕草をします。
「クーラーは私が寝る前に止めた」「・・そう」
「うん、まだ夏本番前なのに入れっぱなしなんてしてられないでしょ」
 有川くんは反論しませんでしたが、あたかもそのせいで、あの様な夢を見たのだと云いたげな顔です。
 有川くんと美由さんは新居でやっと落ちついたところです。なかなか、段ボール箱が減らない有川くんでしたが、美由さんが見兼ねてさっさと片づけてしまいました。
 今日は電車で式場に向かっているとこです。
「電車でってのも締まんない話だよね」
「そのために車借りるっていうのも変なハナシでしょう?他の人ともスケジュールが違うから、送ってもらうってわけにも行かないし。もともと、それほど遠いこともないしね」
 と結婚式に向っている二人です。無論、彼らの、です。

 さて、そんな会話あった数時間あとです、大変なことが発生してしまいました。
 所は、マキさんの家。彼女は今日の結婚式には二次会からの参加でしたので、朝はのんびりと起きて、仕度をしていたのですが。もう出掛けようかとしていたときに電話が鳴りました。
「タタさん、どうしたんですか。盛り上がってますかぁ」披露宴に出席中のはずのタタさんからでした。しかし、話を聞いているうちに、だんだん気分が落ちこんできてしまいます。
『ポケベルが鳴っちゃって、電話対応はしたのですけど、どうもK社のシステムがちゃんと動いていないみたいなんです。マキさん、申し訳ないですけどちょっと確認してみてもらえませんか?』タタさんの恐縮した姿が受話機の向うに見えそうです。
 ついこの前にリリースしたプロジェクトのシステムが正常に動作していないとのクレームでした。
 出掛ける仕度はひととおり終ってしまっていました。その姿のまま端末を立ち上げます。そして、待ち合わせをしていた三奈月さんに連絡を入れました。
 そのプロジェクトに、マキさんは途中から参加していたのですが、仕様のだいたいは頭に入っています。とりあえず、会社に接続して、そこからプロジェクトのマシンへログインします。原因はすぐに分かりました。
「こんにちは」
 三奈月さんが来ました。本当は駅で待ち合わせだったのですが、時間的にどうなることやら分からなかったので、直接来てもらったのです。一人ではパニックになる、という気持ちもありましたし。
「どうなの?」
「サーバの幾つかが上がっていないだけだから、それを起こしてやればいいだけなんだけど・・」
「だけど?」「root のパスワードが分かんないんです。つい最近変えたみたいで」
 そういえばそんなやりとりをタタさんと有川くんがしていたような覚えがあります。
「変更したのなら、連絡があったのじゃないの。メールとか」三奈月さんが訊きます。
「あったんですよ、有川さんからメールが。昨日出されているのですけど」そう云ってマキさん、メールクライアントを立ち上げます。先程落としておいたメールを開きます。
「肝心のパスワードが書かれてなかったとか?」
「いえ、あります。確かにあるんですけど」ただそれは、PGP で暗号化してありました。「会社じゃなきゃバラせないんですよぉ」
 途方に暮れてしまいます。
「タタさんに訊いたら覚えてるんじゃない」
「でも、たぶん、ランダムな文字の並びだから、いくらタタさんでも、そらでは覚えていないと思う・・」マキさん弱気になってしまいます。まさか式場に PC を持ちこんでいるとも思えませんし。

 バイブレーションにしていた携帯電話が震えました。タタさんはそっと廊下へ出ると、耳にそれを当てます。予想していた通りにマキさんでした。
「そうですか、root のパスワード・・ 覚えてないですね。記号と、確か数字の3が入っていたと思うのですけど」
 受話機のあちらとこちらで溜め息です。
「高砂の彼しか分からないってことですね。しかし、たぶん、彼も覚えてはいないでしょうね。そうなると頼みの綱は、」マキさんも同じことを考えているみたいです。
 席に戻ると高原さんが心配そうに訊きます。同じテーブルの誠司さんと安堂くんも気になる様子。
「彼に云ってみるしかないみたいです」タタさん舞台の方に向かうことにします。
「今なら大丈夫でしょう。お色直し中だし」
 タタさんなるべく皆さんの視界に入らないように、こそこそと彼に近づきます。端から見れば、彼の長身が隠れるわけもなかったのですが。有川くんの脇にしゃがみこんで、ことのなりゆきを話ました。そこに座っていた鶴川さんも驚いています。
「そんなの覚えていないですよぅ」有川くん悲鳴を上げます。あくまで(ひそひそ)ですけど。
「Palm に入れてたでしょう?」
「そ、そうです、入れました。それです!」
「それで、今日は持ってきたのですか?」
 彼は胸ポケット、スラックスのポケットを触ります。あれ? という顔をしてから、
「ああ、そう! 美由に取られたんだ!」
 聞くと、式場に到着して Palm を取り出したら、美由さんにそれを取り上げられてしまったそうです。「こんなときにまで」と恐い顔をされたのでした。
 タタさんはすぐにそこを離れ、廊下に出ました。彼女のところへ向かおうとしますが、さて、お色直し中の花嫁の元へ行くのはためらいがあります。高原さんにお願いしようと、戻りかけたところへ、ちょうど、美由さんが現われました。洋装に着替えた彼女はとてもきれいだったのですが、タタさんに話を聞いた彼女は裾をちょっと持ち上げ気味にして、部屋へ取って返しました。係の人たちもあっけにとられるほどのスピードです。
 戻ってきて、タタさんに彼の WorkPad を渡すと、息を整えます。タタさんは手の中の WorkPad のスイッチを入れながら、その場を離れます。電話をかけなければなりませんから。確かにパスワードが書かれていました。マキさんに連絡します。
 有川くんは皆さんよりも少し高いところから、見おろす形になっているのですが、タタさんがなかなか戻ってこないので、気になって仕方がありません。そちらを見てばかりいたら、鶴川さんに袖を引っぱられました。どうやら、彼女の仕度ができたらしく、廊下へ出るようにということです。
 軽く返事をして立ち上がると、ちょうど、タタさんがドアを開けて入ってきました。有川くんに合図するように、笑ってから手を上げてくれました。鶴川さんにも分かったようで、二人して顔を見合わせると、安堵の溜め息をつきました。
 しかし、「花嫁が待っているぞ」という言葉に、慌ててドアへと駆け出します。

 廊下に出ると彼女がいました。急いで近づいて行きます。
 目の前まで来ます。美由さんは、ちょっと怒ったようにしてドレスのまま腕組みのポーズです、彼を見上げて云います。
「まったく、こんなときにまで、仕事の話ですか」
「ああ・・、ごめん」
 美由さんはこれまで見たことのないように、きれいでした。
「これからもずっとそうなんだろうね」
「・・そうかな」
「でも、それが和樹なんだよね」
「・・・」
 彼女の指先が、腕に絡みました。
「行こうか」有川くんが云います。美由さんは、うなずきました。
 扉が開きます。

◇ ◇ ◆

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