桜 (Pilotな日常 連載46)


連載46 ($Revision: 1.1 $)

◆ ◇ ◇

 もちろん、今年もお花見はありました。
 タタさんはこの時期 (せっぱ詰まるほどに) 忙しいということもなく、今年も無事、幹事を勤め終えることができました。いつもの場所でいつもの通りに盛り上がったのですけど、ただ一点だけ欠けていることがありました。

 お客様との打ち合わせを終えて、内容的にも前進したこともあって、とてもリラックスした気持ちになっていました。相手が大きな企業であったことも影響したことと思われます。そして、三奈月さんにこんなメールを出しました。

もしよろしければ、お花見しましょう。
お花は散ってしまっているでしょうが、
今なら、人はあまりいないと思います。

 三奈月さんもちょうど、お仕事に区切りがついたところでしたので、OK の返事を書きました。三奈月さんは今回のお花見に、仕事の都合で参加できなかったのです。タタさんはそれをとても残念に思っていた様です。むろん、三奈月さんはそのことで多少、ストレスが溜っていたみたいです。ふたりして、そそくさとオフィスを抜け出します。まあ、そのくらいは許してあげてください。

「もう、ずいぶん、散ってしまいましたね」
「ええ、でも、花びらが欠けてしまった桜も美しいですよ」
「そうですね、わたしどちらかと云えば、地面で舞っている桜の花びらの方が好きなんです」
「なるほど、そうかもしれませんね」

 どことなく時代がかったやりとりをしている、ふたりにつっこみを入れる人もいません。と思いましたが
「タタさん、アマイですよぅ、ふたりっきりでお花見なんて」いつの間にか高原さんがおなじベンチに座っていました。それから、あれよあれよといううちに人が増えて行きます。
「みなさん、欲求不満なんでしょうか?」と思えるほどに、盛り上がっていく情景に異常さを感じながら・・

「耳よりな情報なんだけど」「なに?」
「お花見してるんだって」
「もう桜なんて散っているんじゃないの」
「だね」「でもどういうわけか盛り上がっているみたいだよ」
「主催はあの田中さん・・」
「へえ」
「どうして誘ってくれないかなぁ」
「行ってみる?」「当然でしょう」
「でも、ぼくらなんて云っていいのかなぁ」
「須藤を連れていけば問題ないでしょ」
「どこ行ったんだよあいつ」「会社にはいると思うけど」
「携帯にかけてみようか」

 マキさんは仕事を終えエレベータに乗り込みました。
「おつかれさまです」
「あ、須藤くん、おつかれさまです」中には彼が一人で乗っていたのです。
「岡崎さんも、これから花見?一緒に行きましょうよ」
「は?、お花見はもう終ったよ。新人さんたちは出なかったの?」
 お花見の日、彼らは会社ではない他の場所で研修だったとのことです。エレベータを降りると、ホールに新人さんたちが揃っています。
「そんなこと、知らなかったけどなぁ、どこの部署がまとめてるの?」歩き出しながら訊きます。
「いえ・・太郎さんだと聞いてますけど」
「タタさん?」私を誘えない理由があるのかな、と考えます。
「まあ、とりあえず行ってみませんか?」ぞろぞろと皆さん歩きはじめます。

 さて、どこから調達してきたのか、ゴザがひかれて桜の花びらに埋もれて、これまた近くの酒屋さんから箱ごと買ってきたというビールとカップ酒が置かれます。
「焼き鳥部隊はまだ帰ってこないの?」
「おでん、到着しました!」
「氷だれか買ってきてくれない?」
 酒席らしくなってきましたが・・
「どうしてこういうことになったのでしょうか」
「もう少し歩道から離れていればよかったですね」
 花見のトリガーになったふたりが、隅の方で愚痴をこぼしてします。日本酒を差しつ差されつしながら。
「ま、いいじゃないの、二人きりになんていつでもなれるんだから」
 ふり返るとワインボトルを片手に、高原さんが立っていました。はい、差し入れ、とそれを渡されます。
「こんな通り道で飲んでたら、そりゃ寄ってくるでしょ」
「ううう、そうですね」
「いちゃつくんなら、せめて、人目の無いところに行かなきゃ」
「い、いちゃ・・」絶句する二人。
 また、新しい団体が参加してきます。
「あ、あの人たち、新人さんじゃないですか」三奈月さんが気付きました。
「いい機会ですね、彼ら前回の出られませんでしたから」見ているとキョロキョロと落着く場所をさがしているみたいです。タタさんが立ち上がって手を上げました。
「太郎さん」
「千夏くん、マキさんも」
「どうして呼んでくれないんですかぁ」彼たちに抗議されますが、困った顔をするしかないタタさんでした。
 タタさんを中心にまた、グループができあがっていきます。

「有川は?」
「さっき電話してみたら、もう家の近くみたいだった」
「運のないやつ」
「でも、これから戻って来るって」
「これ、手に入れましたよ『最強化パック *1』」
「あれ、まだ発売されてないはずですよね」
「ええ、ツテがありまして。すごい情報量ですよぉ」
「ここにもいたか、Pilot 使い・・」
「岡崎さんていくつなんですか」
「女性にトシなんて訊くもんじゃないよ」
「ええー?気にするほど上なんですかぁ、ショック」
「ちょっと、そこに正座しなさい」
「『タタさん』ていうのはやっぱり、苗字と名前からなんですか?」
「そういうこと、ぴったりでしょ」
「ちなみに私、『ミミ』ですよ、」
「鶴川さん、いつからいらしたんですか」
「タタさん、ちゃんと連絡してくれなきゃ」
「もう、いいですよ、そういうことは・・」
「誠司さん、元気なんですか?」
「元気元気、呼ぼうか?」

 空き缶、空ビン、が目立つころになって、タタさんが立ち上がって云いました。
「では、とりあえず、お開きにしましょう。次に行く方はそれぞれでお願いします。一本締めしますか」
 それを見ていた三奈月さん、
「けっきょく、タタさん、しきってるし」とこぼします。
 皆さんの手を打つ音が辺りに響いたときに、
「どうも遅れましたぁ」
 有川くんです。しばし、静寂が訪れました。
「やっぱり有川さんて、そうなんだ」
 という千夏くんの言葉にて幕です。

◇ ◇ ◆


*1: Muchyさんによる『WorkPad+Palm シリーズ 最強化パック』が出版されています。アスキーからです。「日常」の4章までを収録していただいております。

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