Trouble Maker (Pilotな日常 連載33)

Trouble Maker
連載33(Ver1.0)

◆ ◇ ◇

「よお、久しぶり」
「安堂、いつ帰って来たんだ?」
「帰ってきたワケじゃないよ。一時帰国、あと2週間くらいしたら、また戻ることになってる」
「そうか、」
「結婚するんだって」
「ああ、来年のはなしだけど」
「おめでとう、同期の連中でお祝いはした?」
「いや、べつに、その、大げさにすることでもないし・・」
「ナニ云ってんだよ。十分、大袈裟なことじゃない」
 という様な会話がありました。内容の通り、有川くんと同期入社の安堂くんが一時的にではありますが戻ってきたらしいです。有川くん、美由さんの同期の人たちでのお祝いをしていないのかと訊かれ、半ば強引に会を持つことに了承させられてしまいます。
 もちろん、有川くんも嬉しいのですけど、どうも、(こいつ、単に連中と集まって飲みたいだけじゃないの?) という考え方も湧いてきます。

 その日、タタさんとマキさんは鶴川さんと、新しいプロジェクトの件で、客先に直行しています。
 お昼過ぎに、高原さんと三奈月さん、有川くんは社食に来ました。3人でテーブルにつくと、早速、有川くんは照り焼きチキンを刻みにかかります。皿の上で、解体作業を済ませてしまってから、箸を手にします。
「タタさんたち、今日は戻ってくるんですか?」
「うん、午前中で打合せは終るはずだよ」高原さんが答えます。
「マキさん、客先に行くの初めてでしたっけ?」
 三奈月さんが訊くと、二人は頷きます。
(そうか) 彼女が入社した頃のことを、思い出します。
「私の初めてのプロジェクトって、高原さんと一緒に出掛けましたよね」
「そうそう、この前のバーベキューの最後で話題になったプロジェクトだったでしょう」
「あの、恐かったってやつ?」
「そうか、あれって、入ったばっかりの頃でしたね」
 三奈月さんお茶を口に運びながら、回想します。高原さんが云います、
「彼女と彼は、とっちめたの?」
「まだです。会いましょうって、滝原さんにメールしてみただけです」
 だったら、私も行きたい、と高原さん。二人して、ふたりをいじめる相談を始めます。
(かわいそうに・・) 有川くんが知らない彼らに同情していると、ポン、と頭を叩かれました。振り向くと安堂くんが手を振りながら、出口に向うところでした。
「あれぇ、安堂くんだよね」と高原さん。
「ええ、2週間くらいしたら、また、アメリカらしいですけど。誠司さんに云っておいてください」
 誠司さんがまだ、社にいた時に安堂くんと彼はあるプロジェクトで深く関わりました。
「アドレスは変ってないと思いますから、連絡はつくと思いますよ」
 三奈月さんの来る少し前のことですので、彼女は彼のことは話で聞いているだけです。
「そうそう、あいつが云っていたんですけどね・・」そう云って、妙な間を取ります。女性二人は思わず、手を止めて話の先を促します。
「タタさんて、結婚してるの?って訊くんですよ」
「はあ?」
「いや、してないと思うって云ったのですけど」
 三奈月さんはじっとして、その話を聞きます。高原さん、なんとなく最初から雲行きの怪しいハナシだとは思ったのですけど、
「なんでも、奴によればタタさんの最寄り駅辺りで、タタさんと女の人が並んで歩いていたって、イテッ!」
 最後の一言は、テーブルの下で、高原さんの蹴りが有川くんの膝頭にヒットしたためです。なにするんですぁ、と非難の声を上げる彼ですが、その隣で三奈月さんが固まってしまっているのには気付いていない様子です。

 傍らの財布が視野に入ります。
 そして、それにぶら下っている、キーホルダーに目が行きました。ついこの間に付けたものです。結局、あれからいつも手の届くところにあります。
 ディスプレイに目を戻します。やるべきことは山積しているのに、先程から全く、手についていません。
「やれやれ」
 そんな三奈月さんを横目で見ながら、高原さんは溜め息を漏らしました。
(子供じゃないのだからさ・・)
「かわいいね、それ」昨日のこと。彼女の持っていたそれを見て云ったのでした。
「タタさんに貰ったんです」そういう答えが返ってきました。三奈月さんはさらりと云ったつもりだったのでしょうが、頬が少しだけ上気していたのです。
(なんだ、うまく行ってるじゃないの) とその時は思ったのですけど、まだ、思い過ごしの領分のらしいのです。
 三奈月さん、Pilot で、Todo を確認すると席を立ちました。「なにか要るものありますか?」気分を転換するために、ちょっと外に出ることにします。

 通い馴れた道を少しだけ、駅の方へ歩いて、コンビニに向います。端から見れば、のんびりとした足取りですが、三奈月さんの頭の中は同じ言葉と疑問をずっと反芻し続けています。
(なんとなく、そういう人がいないって思い込んでいただけで、そいういう人がいたって全然不思議なことじゃないんだ)
(いや、むしろ、いないって考える方がおかしいんじゃないかな)
 いちいち、会社の人たちに報告するわけじゃなし、高原さんとかが知らない可能性だって・・
 どうも、俯き加減になりながら、お店に入りました。Pilot 用の単4電池を手に取ります、Battery Level Hack *1 の表示が、2 Volt を割っていましたので。
 他に、コーヒー用のミルクとシャープペンシルの芯を持って、レジに並びました。店員さんが一人だけで、そこに集中してしまっているので、ちょっと待たされそうです。
 頭を多少振ったところで、先程からの思考は滑り落ちてはくれないようです。そして、溜め息・・
 そのとき、
「ああ、それ使ってくれているのですね」
 いつの間にか、タタさんが隣に立っていました。カゴを下げています。これから会社に戻るところみたいです。
 ありがとうございます、にっこりと彼が云います。
 三奈月さん、彼の顔を見上げて、
「はい」と微笑みました。
 少し、せつない笑顔だったかもしれません。

 ◇ ◇ ◆


*1: アプリケーションラウンチャーのバッテリーの表示をカスタマイズする Hack ソフト。Pilot 版と、PalmIII 版とある。David Smith さん作成。[↑]

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