思いと想い
連載27(Ver1.0)
◆ ◇ ◇
タタさん、新幹線の中でも、キーを叩いています。今回のプロジェクトのまとめとしてドキュメントを作成しているのですが、連日のハードスケジュールのために、集中力を欠いている様子。
「あれ?」
あまりきちんと、充電をしていなかったせいで、ノートPCのバッテリーが終ってしまった様です。メモリの情報を、ディスクに書き込むプログレスバーを呆然と見ながら反省します。そこで、ちょっと、目と手と頭を休めたのですが、そうもしていられません。
Pilot を取り出すと、QED *1 を起動します。一時停止していた意識を再度呼び出すと、文字へと変換を始めます。キーボードと違って、Graffiti の入力は、多少の障害にはなりますが、ペースを掴められれば、驚くほど(筆)が進みます。
Drag&Drop *2 と、D ClipBoard *3 を駆使して、ドキュメントを書き上げていきます。
鶴川さんが云います。
「タタさん、今日帰ってくるからね」
「そうみたいですね、よかったですね」と、高原さん。
マキさんも、
「結局、一週間くらい延びちゃいましたね」
「そうか、一週間経っちゃったのか」
「あちらの方は、カタがついたらしいから、とりあえずは安心ですよね」
「一応、スケジュール通りだったのでしょう?」
鶴川さんに訊きます。
「まあ、あちらの都合で引き止めたってことで、ずいぶん、恐縮されちゃったんだけど」
それで、今日は会社に来るのです? マキさんが訊きます。
「いや、今日はもう帰って、明日から」
そうですか・・マキさん残念そうです。
その会話を、少し遠くから耳にしていた三奈月さん、Pilot を手にして、DateBook の「タタさん」という項目を明日にずらします。
そして、溜め息をひとつ。その仕草を、高原さんにしっかり見られていたのでした。
電池が無くなりつつあるのに気がついたのは、Volt が相当下ってからでした。あいにく、買い置きの単4電池は持っていません。タタさんは仕方がなく、新幹線を降りてキヨスクへ向います。
「あれ?」
財布の中を探っている間に、発車してしまいました。
しばらく、呆然とたたずむタタさん・・・
有川くんは、今日は外へ出ています。マキさんも急ぎのことがあるというので、高原さんと三奈月さんとで、社食に来ました。
今日はふたりして、麺類を選択しました。向い合って、それを箸へ絡めます。食べるのに没頭しているのか、三奈月さんは静かです。それ見て、
「今日、会えると思っていたの?」
「え?」
「分かりやすいなぁ」
三奈月さん、うつむいてしまいます。いじわるするつもりは無かったのですけど。つい、笑みがこぼれます。
「彼の前でそのくらい、素直になれればいいのだけど」
まあ、タタさんはニブいから、その程度じゃダメかな。と云います。
「そんなこと・・」
日本そばを無意味にかき混ぜながら、考え込んでしまう三奈月さんでした。そんな彼女を見て、
「今日さ」
「はい?」
「又八郎さんを連れに、タタさんが、ウチに来るんだよね。久しぶりに家で一緒食事しようか、ってことになっているんだけど」
三奈月さん、顔を上げます。
「ダンナも今日は家にいるみたいだし、タタさんもあんな体つきでよく食べるからさ。結構、用意が大変かなぁ、て」
手伝ってくれるかな? と訊かれます。
彼女の顔が、ぱっ、と輝きました。
「あれ?」
気が抜けたせいか、座席でついウトウトとしてしまったみたいです。タタさん、思わず額を(ぺちぺち)と叩きます。
Pilot を手にして、考えのまとめと、文章の作成に戻ります。Commander *4 のショートカットから、QED を再度呼び出しました。最近では、このラウンチャーを好んで使っています。
少しの間は、Pilot の上をスタイラスが快調に走っていたのですが、いつの間にかその手も止まり、また、眠りに吸い込まれて行ってしまうのでした。タタさんの手から、Pilot がゆっくりと、シートへ滑り落ちます。
「やあ、こんばんは。おかえりなさい」
誠司さんが迎えてくれます。彼は今日、会社を休んだらしかったです。
一緒に、又八郎さんも廊下を歩いてきます。そして、一声。
途中で買った食材をキッチンへと運び、早速、準備にとりかかります。
「タタさん、さっき、家に着いたって電話が来たから、そろそろ向って来ていると思うよ」
という言葉に、三奈月さんの鼓動が少しだけ早くなります。会社を出る時にマキさんにも声を掛けたのですけど、彼女は今日は用事があるようでした。とても、残念そうにしていました。
三奈月さんも一緒ということに、誠司さんは何の疑問も持っていない様子です。居間で又八郎さんとくつろぎながら、ノートPCのキーを叩いています。
高原さんと三奈月さん、ふたりしてキッチンに立つと準備を始めました。
タタさんは、駐車場へ車を入れると、お土産を持って、降ります。彼らのマンションへ来るのは本当に久しぶりだったので、ちょっとウロウロしてしまいました。
エレベータの扉が閉まります。
家へ着いてもあまり、ゆっくりしている時間がありませんでした。本当は会社に顔を出したかったのですが。
彼女の顔を思い出します。
(まあ、しょうがいないですね。明日は会えるでしょうし)
エレベータを降りて、廊下を歩きます。扉の前に立って、チャイムを鳴らしました。ドアに近づいてくる足音が微かに聞こえてきます。
開きました。
「おかえりなさい」
彼女が目の前にいました。
「あれ?・・ ただいま」
彼女が微笑みます。
◇ ◇ ◆
註
*1: 本格的なエディタです。Doc フォーマットのドキュメントを作ることができます。 Kurt Schuster さん作成。
*2: 福本さんの Drag&Drop ユーティリティです。別途、様々なモジュールをインストールすることで、いろいろな機能を追加できます。
*3: 山田さん作 DAL と連携することで、複数のクリップボードデータを実現できます。Drag&Drop モジュール。今関さん作成。
*4: 高機能ラウンチャー。ショートカットを設定すると、それでアプリケーションを呼び出すこともできます。Palmation 作成。


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