Emergency!
連載22 (Ver1.1)
◆ ◇ ◇
その朝、タタさんと有川くんが、マシンルームに入っていくと。
「おはようございます」先方のプロジェクトマネージャーが部屋にいました。これまではなかったことです。挨拶を返してから、何かあったのですか?と訊きます。
「実は・・」
前日、彼らが帰ったあとに、清掃会社の掃除があったらしいのですが。
「それで、ちょうど久しぶりにこの辺りにも入ってもらう予定だったらしくて」聞けば、掃除器のコンセントを繋いで電源を入れたら、ブレーカーが落ちてしまったとのことです。
「この辺の電源が落ちてしまったんです」
「えっ?」思わず有川くんが云います。慌ててマシンの前に移動します。電源はすぐに復活したので、マシン自身の電気は入っています。二人してふたつのマシンそれぞれで、操作してみます。まずディスクの検査です。
「DBマシンは問題ないみたいですよ」有川くんが云います。
それに対して、「こちらは、ちょっとまずいです」タタさんが答えます。しばらく、キーを叩いていて一応は普通に立ち上がるようになりましたが。
「システムのディスクですから、今後が心配ですね」
「どうします?」
「サービスマシンとはいえ、最初から爆弾持ってるのは怖いですよね」
結局、そのマシンはセットアップを全てやりなおすことになりました。これまでの数日間が水の泡となりました。
「しかし、今なら最短時間で設定できますから」タタさんはそう云います。確かにセットアップのノウハウは今が一番濃いのです。
「どのくらいかかりますか?」
「OS から入れ直して、データを移して・・全部含めると丸2日は要りますよ」
「交渉してきます」そう残して、タタさんは部屋を出て行きます。有川くんは早速、再インストールを開始しました。
電話を置くと、高原さんが誰に云うともなく云いました。
「大変みたい。サービスマシンを最初からやり直すんだって」
「どうしたんですか?」三奈月さんが訊きます。高原さんは聞いた通りのことを話します。
「元凶は、掃除器ですか」
「電源の工事が遅れてたみたい。それが伝わってなかったのね。そう聞いてれば、多分、毎回マシンは落として帰っただろうし」
それで、タタさんはデータの転送のため FireWall の外のマシンに、必要なものを移動しておいて欲しいと、高原さんにお願いしたのでした。
「間に合うのですか?やり直していて」
「うーん、なんか間に合わないみたいだよ。今日の時点でサーバ側は全てが終わっていて、あとはクライアントマシンのセットだけだったんだから」
「じゃあ、どうするんですか?」
交渉決裂、というわけではないのですけど。2日は延ばせない、と云われました。
「なんでも、運用の講習2日目にお偉いさんが来るらしいですから」
「はあ、なるほど。ありがちな理由ですねぇ」
キーを打ちつつ、有川くんは答えます。でも、どう考えてもこのままでは、期日通りに全てを終えるのは無理です。どうしますか? との問いにタタさんは云います。
「2日は無理ですけど、一日なら、なんとかなるということです」
「ああ、そうか。お偉いさんが一日目になるだけのことだから・・」いまいち納得行かない顔です。
結果として、二人してマシンの前に噛りつくことになりました。とは云ってもインストール作業ですから、一時間以上もプログレスバーを眺めている時間もあります。そんな時は、HUB に接続したノートPC で、サイトをチェックして (Pilot)にもインストール作業をしています。彼らしく、
タタさんは「この忙しいのに」とも云わないで、自分の作業を進めています。既に、外は真っ暗です。どうやら、徹夜作業は避けられない様子。
朝に会ったプロマネが、恐縮した呈で、帰って行きました。
Muchy's Palmware Review! *1 をチェックしていた有川くん、最新版の Drag&Drop *2 を PalmIII に入れます、
「あれ?レジストしてるのに、なぜ [DEMO] がペーストされるんだろ?」 *3
タタさんがコンビニで買ってきた、おむすびを食べると、再度マシンのセットアップに没頭しはじめます。タタさんは、タタさんで、本来、今日やるべきだった作業を遅ればせながら始めます。
「日付が変りましたよ」
「眠たくないですか?」
「まあ、徹夜は馴れてますよ。まだ若いですし」
「ならば、私はひと眠りしていいですか」
「なぁに云ってるんですかぁ、タタさんだって若いじゃないですかっ」
そのまま朝を迎えます。
鶴川さんは出社して早々に、携帯のタタさんと話しました。なんとかその日のうちに、全体の設定が終りそうだ、とのことで、ほっと胸を撫でおろします。
「でも、そんな状態で講習なんてできるの?」
『とりあえず、終った時点ですぐに帰ります。実際、集中した時間は有川くんの方が多かったので、彼は明日の昼まで寝ててもらいますよ』
タタさんはそう云いますが、彼も大変な状態のはずです。無理しないで、ということを云って受話機を置きます。
「大丈夫なのですか」傍らで心配そうに聞いていた、高原さんたち。
「まあ、大丈夫だろう。彼らのことだからね。なんとかするさ」
「この CGI から、ちゃんとデータベースにアクセスできれば OK です。あとは、問題が起った時点で見直すしかないですね」
タタさんと有川くん、同じディスプレイを見つめています。クライアントの DOS/V マシンから、ブラウザで操作してみます。想定していた答えが表示されて、ひとまず安堵です。
「今、何時ですか?」時計を持たない有川くんが云います。
「6時ですよ」「ええ?」驚いてブラインドの隙間を開いて外を見ます。本当だ、暗いですね、と呟きます。
「もう OK にしましょう。これ以上やっても、集中できないでしょうし」
会社の人たちと一緒に、出口を過ぎました。
「又八郎さん、大丈夫なんですか?」
「でしょう、彼は私よりマイペースですから」
タタさんの愛猫、又八郎さんは知り合いの所に預かってもらっています。
「じゃあ、大丈夫ですね。きっと」
「ははは、どういう意味ですか」
ホテルに戻って、ビールを注ぎました。
「おつかれさま」と云って、グラスを合わせます。心地良い音が部屋に響きました。
「明日は昼頃まで、休ませてもらうことにしてありますから、ゆっくり寝てくださいね」
「ああ、ありがとうございます」そう云って、一気に煽ります。少しの間、昨日今日のことを話していましたが、有川くん、すぐにベッドにもぐってしまいます。
それを眺め、タタさんはにっこりとします。そして、音を立てないようにノートPC を取りだして、なるべく静かにキーを叩き始めます。そうしてしばらく、ディスプレイを睨んでいました。
◇ ◇ ◆
註
*1: Muchyさんの、Palm/Pilot サイト、一日1レビューを掲げてらっしゃいます。初心者の方にもヘビーユーザにも、お役に立ちます。
*2: 福本さん作成、話題の Drag&Drop Hack。テキストを選択してペン操作で移動、コピーが可能となります。また、モジュールを追加することで、様々な機能が付加されます。
*3: このような現象は、バグだったそうです。すでに、対応されています。私自身の設定のためと思っておりましたので、このようなことを書いてしまいました。福本さん、すみません。

